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特殊爆弾「アップ・キープ」
ダムバスター(※1)の通称で知られるアップ・キープは、イギリスのバーンズ・ウォーリス技師により開発されたダム破壊を目的とした爆弾で、炸薬にはRDX爆薬という特殊炸薬が採用されている。
ウォーリスは第2次世界大戦の始まった頃からダム攻撃の可能性を模索していたが、仕事でドイツ軍の500ポンド爆弾が予想以上の破壊力を示したことについて調べているうちに、地中に深く食い込んで爆発した爆弾が強力な衝撃波を生み出し、通常の爆発を上回る破壊力を発揮することに気づいた。
このことにヒントを得たウォーリスは、実験を行うためにイギリス政府に対し、申し入れをしたが全く相手にしてもらえなかった。
理由としては、ダムに対する攻撃では直撃弾を要し、高空水平爆撃では目標が小さすぎて命中の可能性は低く、雷撃では魚雷攻撃阻止のために防雷網が張ってあることが確実であるというものだった。
その後、ウォーリスは実験を続けるために王立研究所に移り、十分な計算と試験結果により、使われていない高さ9メートル、幅55メートルの小さなダムを破壊実験に使う許可を得て、水中3メートルの位置に爆弾を仕掛けて実験を行った。
結果、ダムは予定どおり破壊され、実験は大成功を収めた。
また、ウォーリスは風呂をダムに見立て、ビー玉を投げ込んで投下の方法を実験していたところ、投げ方によっては水を切って跳ねるビー玉を見て、確実に命中させ、しかも防雷網にも引っかからない爆撃方法を編み出し、計算と実験を積み重ねた結果、爆弾の形状は円筒形、投下する前にモーターによって爆弾に高速回転を与え、超低空で投下することにより、水面を跳ねていく(※2)ことが分かった。
そして投下システムも製作され、1000ポンド程度で作られた爆弾によるモスキート(※3)やウェリントン爆撃機を使用しての投下実験も良好で、必要な炸薬量などの要素から爆弾の大きさを計算した結果をもとにイギリス空軍が装備する各種の爆撃機を比較検討した結果、アブロ・ランカスターが最も任務に適するという結論に達し、実験の状況が撮影されたフィルムとともに報告書をハリス空軍大将に提出したが、却下されてしまう。
しかし、一度はお流れになったこの計画に関する情報が当時の首相ウィンストン・チャーチルに伝わり、彼の後押しもあって採用、さらに改良と調整を重ねた結果、運用は次のようになった。
1:投下の10分前からモーターによって爆弾に500〜700rpmの回転を与え、高度60フィート、240〜250マイル/毎時のスピードを維持し、目標となるダムの手前400〜500フィートの位置で投下する。
2:投下時に深さ30フィートで作動する圧力信管の安全装置が解除され、90秒間の時限信管が自動的に作動する。
3:投下後は回転によって12回スキップしてからダムの堤体に当たり、設定した深さまで沈むと圧力信管が作動して爆発する。これが不調の場合、投下時に作動させた時限信管がバックアップを行う。
4:爆発によって発する衝撃波がダムの堤体に亀裂を入れ、水圧に耐えきれなくなったダムはそのまま崩壊する。
この爆弾による最も有名な攻撃はガイ・ギブソン空軍中佐を隊長とするRAF(イギリス空軍)第617飛行隊所属の、専用に改造された19機のアブロ・ランカスターにより1943年5月16日夜半から同月17日未明にかけて行われた、「チャスタライズ作戦」と呼ばれるドイツのルール地方のメーネ、エーデル、ゾルベの各ダムに対する同時攻撃である。
結果は出動した19機のうちの10機が撃墜されたが、攻撃自体は大成功を収め、メーネ・ダムに至っては戦後になるまで修復できないほど、完膚無きまでに破壊され、RAFに華を持たせた。
さらに、この攻撃によるオマケの戦果として、決壊したメーネ・ダムからは3億3千万トンに達する水が下流の西ルール峡谷一帯に襲いかかり、この水害によるドイツ側の損害は記録に残っているだけでも、125箇所の工場、25箇所の橋梁、6500頭以上の家畜を押し流した上、約3000ヘクタールの耕地を耕作不能にし、民間人を含む1295人の人々を死亡させている。
※1
爆弾の愛称として通っているが、これを装備する専用のランカスターの愛称として書かれていることも多い。
どっちが正しいのやら。
※2
米軍のスキップ・ボミングはこれを元にしている、という主張もある。
※3
モスキートはアップ・キープの小型版である「ハイ・ボール」を搭載できた。
ドイツの降伏とほぼ同時期に実用化され、艦上型モスキートとともに対日戦に送られたという。
これはハイ・ボールが対艦兵器としても有用であったためで、※2の話が嘘か真かは別として、符号する面がある。
特殊爆弾「アップ・キープ」・性能諸元
全長:6フィート
直径:5フィート
重量:9,250ポンド
炸薬:RDX爆薬 約6,600ポンド
本項"特殊爆弾「アップキープ」"は、本文及び画像をたこ氏により御提供いただいています。
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